実験室(Laboratory)



Audience A3(DVC)

実験報告1

以下の値は,ARTAでのA3(DVC)測定値です。

メーカーのシングルボイスコイルのA3のデータとはけっこう異なるようですが

私の測定値も,あまり信用できるものではないと思いますが,傾向は分かると思います。

それぞれ Zn  Fs  Qts  Qes  Qms の順です。

  1  2つのボイスコイルを直列にした場合=13.1   93.18   0.51   0.75  1.64
  2  2つのボイスコイルを並列にした場合=3.35   94.94   0.51   0.75  1.61
  3  1つのボイスコイルのみ利用した場合=6.36   94.94   0.75   1.44   1.58


機械的先鋭度は同じメカニズムのスピーカーなので1〜3ほとんど同じです。

1と2で電気的先鋭度がほとんど同じということは,電気的な駆動力が等しいということです。

ただし,3については,ボイスコイル1個しか使っていないため,電気的な駆動力が減るため,

電気的先鋭度が大きくなっています。


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次に,1つのボイスコイルをアンプに接続し,他方のコイルはアンプに接続せず

抵抗Rを並列に入れた場合についてです。

それぞれ     R  Zn   Fs    Qts   Qes   Qms の順です。
     4  0.0   6.36   94.94   0.50   1.47   0.76
     5  2.0   6.36   95.50   0.53   1.51   0.90
     6  3.9   6.36   96.32   0.56   1.46   0.96
     7  8.0   6.36   96.72   0.60   1.50   1.12

抵抗が小さいほど総合的なQtsは小さくなり,制動が大きいことが分かりますが

QesとQmsの大小関係が通常と逆で,こんなのは見たことがありません。

他方のボイスコイルでダンプされているのは,駆動側から見れば機械的なダンプと同じことなので,

Qmsが小さくなるのでしょう。

Qesが大きいのは,コーンの振動が抑えられるので,ダンプというよりは,

電気的な駆動力が弱まっていると考えていいのでしょうか?

ただ,この値をバスレフの設計プログラムに入れてみると,

低域が押えられることを予想したのですが,逆に大きく膨らみます。

実際のエンクロージャに入れてみないと何とも分かりませんが,もしもそうだとすると,

大きなアドバンテージになります。

これがトランスミッションオーディオのいうデュアルボイスコイルの使い方なのでしょう。

 



実験報告2
 


A3のデュアルボイスコイル(DVC)について,3つの方法でヒアリングしてみました。

エンクロージャは7リットルのバスレフで,ダクトの直径3cm,長さ12cmでfdは53Hzです。

fig1ですが,これがEADの言う方法だと思いますが,昨日パラメータを測定したところ,

もしかして,低域が盛り上がるかもしれないと書きましたが,実測したところ残念ながら

そうはなりませんでした。

全体的な周波数バランスは上のほうに寄ります。想定外のQmsのせいでそう計算されたのだと思います。

音質的には,Rを小さくするほど,ダンピングの効いた音になり,締まりのある低音になりますが,

量感は減ります。バックロードの場合は,この方法で調整すれば良い結果がでるはずです。

しかし,このエンクロージャではダクトの直径が小さすぎて,効果が生かせません。


fig2ですが,一方のボイスコイルに直列に抵抗を入れ,他方と並列駆動することにより,

ダンピングを甘くすることを狙いました。

音がボケることなく,甘めの音になり,雰囲気良く聞くことが出来ます。

ダクトを調節しながら,良いポイントを探せば,もっと良さが生かせると思います。


fig3ですが,一方のボイスコイルに低音のみを入力し,低音増強を狙ったものです。

コイルは手持ちの2mHという,大型のものを使いました。

周波数特性は正確に測らなかったのですが,300Hzから下が盛り上がっています。

これは本当に驚きました。

予想通り低音は強くなりますが,音の重心が下がることにより

非常に豊かでおおらかな音になりました。

もともとA3の持つ美しい響きに,ホールの空気の動きやエコーが豊かにからみます。

研ぎ澄まされた美しさのA3に,優しさが加わり,女性ボーカルや木管は実に素晴らしいです。

聞き惚れてしまい,いつまでも音楽を聞いていたくなります。

コイルの値を変えて実験して追い込むと,驚くような結果が出るかと思います。

フルレンジはアンプに直結しなければ良さがなくなる,という人がいますが,

片方のボイスコイルは直結しているわけですから,

精神衛生上も良い方法ではないかと思います。

このような方法で低音を増強することが出来るのですから

デュアルボイスコイルは使う価値が大きいと思います。

 

fig3の接続でいろんな曲を聴きながら,本当に素晴らしい音だと感激していました。
 
重心の下がった,落ち着いた音でありながら,小口径の良さをしっかり生かした繊細さ,

解像度を持っており,まるで2wayにしたような感じです。

 
土台のしっかりした音は,実に安定感があります。

この意味でVT-2SRを超えた,と言ってよいかと思います。

 
もちろんVT-2SRの品の良さは格別ですが,

小口径ユニットを普通のバスレフに入れてこんな落ち着いた音は出せないでしょう。

 
ダブルバスレフやバックロードとも違う小口径を意識させない音は,

デュアルボイスコイルでしか出せないのではないかと思います。

 
スピーカービルダーの方に取り組んでもらいたいと思います。

 


 

実験報告3

 


A3を7リットルバスレフ(チューニング53Hz)にセットし,デュアルボイスコイルをパラレルにしたもの,

および一方にコイルを入れたものについて,測定とヒアリングをしてみました。

測定機器は Phonic PAA3 で,ユニット正面1mでの測定です。

SPLについては,アンプ側のボリュームを調整し,ほぼ同じになるようにましたが

ボリューム位置が同じだと,パラレルの時に比べ,2.0mHコイルで -2.4dB1.5mHのコイルで 

-2.0dB と当然ながら能率の低下があります。

周波数特性をみると,やはりコイルを入れた場合は低域の音圧が上がります。

この効果は,1kHzあたりから表れているようで,それ以下で変化が見られます。

当然ながら,1.5mHよりも2.0mHのほうが盛り上がる周波数が下がっています。

なお,コイルを入れることにより低域が持ち上がりますが,もともとユニットが持っている

低域の限界が伸びるわけではないことは,特性にも表れています。

なお,直列にコイルを入れることで,信号の位相のズレが生じ,

周波数特性が乱れることを心配しましたが,特に問題はないようでした。

ヒアリングをしてみると,周波数特性上は僅かに見えますが,非常に大きな効果があります。



1 パラレル(コイルなしで直結)

本来のA3の音で,実に鮮烈で分析的,超高分解能の音が,これでもかと襲う。

コイルありに比べ,どっしりとした音の安定感は無いものの,はっとする美しさでは負けていない。



2 コイルあり

重心の下がった落ち着いた音で,全く8cmユニットの出す音とは思えない。

もともとのA3の良さは失なわず,そのまま口径を大きくした感じ。

16cmウーファーの2way(VT-6.5+VT-2SR)にイメージが近づく。

さすがに重低音は無理だが,これほどレンジが広くて腰太の落ち着いた音を,

7リットルの箱から出すのは無理だろう。

2.0mHと1.5mHの違いは,好みの違いであろう。

コイルが大きい方が音が太くなり私なら,やはりポピュラー系は1.5mH,

クラシック系は2.0mHで聞きたい。